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ハルが「神様」を鞄にしまおうと少し身体をひねったとき、ちょうどガラス越しによく知る後ろ姿が見えた。「神様」と入れ違いに鞄の中からiPhoneを取り出し、LINEを開く。

 

am.11:27 ハル

「おはよう 今日暇だったら夜会おうよ」既読

am.11:28 ユウ

「おはよ〜 明日〆の仕事があって今日はこもりっきりだわ ごめん 落ち着いたらまた連絡するよ」既読

am.11:30 ハル

「そっか 頑張って 連絡待ってるー」

pm.12:05 ハル

「いまユウちゃんに似てる人見かけたけど仕事中だよね?」

 

 

一応、ハルはメッセージを送ったけれど本当はどうでもよかった。

嘘をつかれることも少なくないし、嘘をつく理由だってなんとなくわかっている。大抵の嘘はバレるところまでがワンセットだってこともわかっているから興味がなくてもとりあえず嘘を嘘として認める。

恋人の嘘に腹を立てながらも冷静を装い、絶望的な事態を想定して悲しみの海で泳ぐ準備をしつつも淡い期待、ここでいうならばハルの誕生日が近いことや昨日ゼクシィを立ち読みしたことを考慮した最高!ハッピー!うれしい!たのしい!だいすき!という状態も想定してはっきりと逃げ道を閉ざすようなことはしない。そういうメッセージを送ったのだ。

 

 いつのまにか隣のサラリーマン達は席を立って半分以上残したコーヒーを返却口に捨てている。ハルもオレンジジュースの最後の一口を飲むと席を立った。そろそろ映画のはじまる時間。ほんの少しだけ駆け足で店を出ると秋のいい感じの風がハルの長いスカートを大きく膨らませた。