6-1


冬で、晴れで、土曜日でした。

 

信号待ち、私の前に、ひとりの女性がいました。
紺色の長いコートの裾から、さくら色のワンピースが見えました。
肘のあたりまで伸びた黒髪が、マフラーできゅっとまとめられていたのを、よく覚えています。

新品のステンレスみたいにかたい風をたべて、女性の髪が持ち上がっていました。
それは、お香のけむりのように、やわらかい髪でした。

 

ふと高いところに目をやると、ビルの窓に反射して、太陽がふたつになっていました。
ひかりに敏感になったのは、いつからでしょうか。

 

私の白いコートに、裸になった木の影が落ちます。
ほんの一瞬で、木漏れ日柄のコートになりました。
そのとき確か私は、影を保存できたら、と思いました。

 

冬で、晴れで、あのひとはどこに消えたのでしょうか。

 

_____

 

やけに電柱が目障りな日。
絵作りのために、電柱をぬいてくれとプロデューサーに頼んだ映画監督がいたという話を、誰かに聞いたことがある。
私は小さい頃、電柱に登りたいと何度も思った。2メートルくらいの位置から生えている棒に、足を掛けたいと思った。
いちばん上から見える景色は、どんなかな。

 

通天閣のほうで、10円を10円で売っていたおじさんは、まだそれを続けているだろうか。
あぁ今日も、手についたアロンアルファがはがれない。

 

冬で、晴れで、私はどこに向かうのだろう。
わからない。
でも大丈夫、みんな、栄養ドリンクの中身がどんな色か知らないから。