5-2
月が欠けるのがほんとうにこわい。
夜の光がどんどん減っていって、自分のからだが持つ灯も、なくなってしまうような気がする。
20Wの電球が、僕の部屋をぼんやりと照らしている。
白のコーティングがされたぽってりした電球は、月に似ているな、と思う。
この部屋の月は、いつだって満月のままだ。
お願いだから欠けないで、これからも。
棚の上には念じたら落ちそうなテレビがある。世はゴールデンタイム、芸人たちが次々とネタを披露していく。
20秒に一度、関根勤の笑顔が映る。
この番組のスイッチャーは彼の笑顔に頼るのをいますぐ辞めろ。
関根勤だいすき。
役目を終えたショートホープが、灰皿の上に山をつくっている。
希望を体内に取り込んでは、希望を捨てている。
そのことに意識が向くたびに、なんだかとても、切なくなる。
あぁ、早く粉になって、夕方5時くらいの風に飛ばされてしまいたい。
この気持ちは、いつも同じ明るさで僕の中にあるのだ。
はやく外に出なければ。
好きな服に着替えて、はやく外に出なければ。
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踏切で電車が行くのを待っている。
ビニール傘にのったたくさんの水滴が、街のあかりで赤く黄色く青く、染まっていく。
会話の最中にそばを電車が通るとき、僕は沈黙をたのしめるひとになりたい。
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紙石鹸に書かれた短い会話を眺めながら、動画サイトでみたあるホームビデオのことを思い出していた。
父親が小さな娘に「ピザって10回言って」と促す。
娘は8回を一息で言い、深く息継ぎをして残りの2回を言った。
決まり通りに、父親が「ここは?」と肘を指差す。
すると娘は、「ひじひじひじひじひじひじひじひじ、ひじひじ」と言ったのだった。
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(やっぱり僕は、この暗号のような記号のようなものを、すらすらと読むことができる。)
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「ねえ、かわいいって10回言って」
「え」
「いいから」
「ピザ10回みたいなやつ?」
「いいから、言って」
「かわいい、かわいい、かわいいかわいいかわいい、かわいいかわいい、かわいい、かわいい、かわいい」
「ありがとう」
「そんな気がしてたよ」