4-2 アサシン

ハルは思い出した。

 
 
小学生の頃のこうかんにっきも、いつも自分から始めようって言って、自分からやめてたんだ。ばかなハル。
 
 
 
 
 
 
ふわふわはどんどん大きくなっていた。
 
私が息をしたり、ココアを飲んだり、食べログで探した二つ先の駅前の上海飲茶のランチで失敗したり、ユウちゃんと『君の名は』を観に行ったり、はじめてできた部下の栗山さんとのディスコミュニケーションで悩んでるあいだに。
 
 
それは何て言えばいいんだ。
 
 
私が外出してるあいだ、ふわふわはいつも押し入れにいる。
正確に言うと「いるらしい」。だって日曜の掃除のとき決まって押し入れにふわふわの残した毛のようなケセランパサランのようなきれいな栗色のものが大量に付着してる。私のカバンとかコートやいちども使ったことのないハロウィン用のトランプの女王の仮装にもべったりと。
 
たぶんそこにふわふわはいる。
なにかしてる。
なにしてるんだかわかんないけど、私とふわふわのルールの中でそれは聞かない。
 
 
 
この二週間でふわふわは私の背を追い越して、もうまっすぐに立つとほとんど天井につきそうだ。
いつもゴロゴロしてるからちょっとよくわかりにくいけど。
 
この前まで腰くらいだったのに、成長期かなにかなのかな。
 
 
昨日なんか、行ったことのないニューヨークで自由の女神が巨大な猿になって私を追いかけてきてばかデカい足で私を押しつぶそうとしてもうだめだと思って起きたら、ふわふわが私の上で寝ていた。動悸が止まらない汗ばんだ胸を押さえてしばらくジッと見てたけど、苦しくなったのでなんとかベッドから抜け出した。
 
 
このままだと殺される、殺されるわ私。
 
 
 
 
はじめて私はあいつを捨てる計画を考えた。
 
 
 
ごめんね私やっぱりまた。
 
でも今回は君が悪いのよ。あんなにかわいかったモンブランちゃん。