CHAPTER5 1

 

ガタン

 

 

と、新聞受けにアレが入る音がした。

 

インスタントのお味噌汁を飲み干し、ゴミ箱に捨てる。

そのままゆっくりと玄関まで行き覗き窓で外を確認する。

いつも通り目があうと少年は小さく会釈をしてタタタッと駆けて行った。

 

僕はそいつを「ごん」と呼んでいる。

 

安直だがごんぎつねのごん。

いつも僕の起きている時間に合わせて新聞受けにアレを入れに来る。

 

アレというのはなんとも形容しがたい、一番なにに似ているかと言うとイガグリのイガの部分をつまんで伸ばして叩いて齧って……まぁとりあえず手のひらにすっぽり収まる程度の容れ物なのだ。

それを優しく撫でるとだんだんにイガがなくなり、まんまるのぴかぴかの泥団子みたいになる。そこにデコピンをするとぱかっと開く。

ふわっと中から石鹸のいい匂いがする。

 

紙切れが一枚。

 

そう、紙石鹸が入っている。

紙石鹸には見たことがない文字のような記号のようなものが書いてあるのだが、不思議と僕にはそれがすらすらと読める。

 

 

 

 

 

小説なのだ。

 

へんてこな文字で書かれた小説には案外普通の女の子の生活が記してある。

なにか大きなことが起きるわけでもなく、女の子とそのペットとの生活。

 

僕もかつて飼っていたあいつに彼女は「モンブラン」という名前をつけている。

 

その名前がなにを指しているのかは僕にはわからない。

ググってみてもそんな単語はヒットしなかったし古い辞書にも載ってなかった。

 

 

 

 

 

小説を読みきると洗面所にいき、紙石鹸を大事に泡立て手を洗った。

 

いつのまにかこれは僕の習慣のひとつになっている。