CHAPTER3 2 ブラックホール

そのままわたしはわたしのなかのブラックホールに落ちていった。

 
持ってきたiPhoneがぬるりと手から滑り落ちて
拾わなきゃと慌てて手を伸ばしたそのとたん、
自分もぬるりと落ちた。
 
 
 
どこからも光は射してこない無限の闇と世界。
 
ブラックホールのなかは真っ黒だったけどとてもあたたかくてなぜかそこらじゅう濡れていた。
 
(胃袋のなかみたいだな)
 
わたしは思った。
 
 
落ちた、という事もどうもあんまりわかってなかった。
 
どこも痛くないし。
 
そして、いま自分がなにをすればいいのか、なにをすべきなのか、
あまりに対応策というか善後策というかそういうものがまるでなにも頭に浮かばず
その想像を絶する闇の大きさの前に途方にくれた。
 
 
 
(そういえばわたしのiPhoneどこかな)
 
 
そう思ってキョロキョロしたけど
もちろん何も見えず、わたしは探すのも考えるもあきらめた。
 
 
 
 
 
そのうちわたしはブラックホールと会話ができることに気づいた。
 
落ちて一時間くらいして。
 
 
 
「あい」
 
とつぶやいたら、無限の闇からエコーのやや効いた柔らかい重低音が返ってきた。
 
「すくりーむ」
 
 
 
 
(え...しりとり)
 
 
 
一瞬複雑な気持ちになったけれど
わたしとブラックホールは、
そのしりとり、というかいやしりとりじゃないか、ただの「言葉つなぎ」みたいな遊びを続けた。
 
 
「あかまきがみ」
 
「きまきがみ」
 
 
 
「ゆー」
 
「えすえー」
 
 
かならずしもわたしの言いたかった言葉が返ってくるわけではなかったけど
わたしのいいかけた言葉がブラックホールによって補完されるというその感じが
わたしは嬉しかった。
 
 
 
 
「わたしはわたしの世界に帰ることができるのかな?」
 
 
あそびをいきなりやめて、わたしはつぶやいた。
 
 
しばらくブラックホールはなにも言わなかった。
 
 
(このひとたぶんちょっとコミュ障っぽさあるよな)
 
 
ぼんやり思った次の瞬間、
無限の闇からまたエコーのやや効きすぎた柔らかい重低音が響いた。
 
 
 
「わ た し の 世 界 っ て な に ?」