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じめつく汗がTシャツからぬけないのでお風呂に入ろう。
そう思った。


お湯をためる間、裸になると、ものすごくへんなかっこうでくるぶしに貼ってあった絆創膏をはがした。絆創膏は湿っていて、ちょっと食べ終わったあとのグレープフルーツの皮みたいな匂いがした。
死んでるのかな私、と思った。

 

「死んでるのかな私」の部分は、口に出してしまった。

 

「死んでないよ」
ふわふわのそれは言った。

部屋のどこからか確かにその声は聞こえたんだけど、裸だから探すのはやめた。

 

 


小さい頃、穴の空いた蓮の葉柄は、子供たちのかっこうの遊び道具だった。茎を折って両側をナイフでスパッと切れば、ストローになった。それでシャボン玉を飛ばすのだ。葉柄の穴の大きさは気まぐれなので、いろんな大きさのシャボン玉ができる。だから子供たちはとても喜んでいつまでも遊んで、よく怒られた。


ある日、私は大きな葉のついた葉柄を家に持ち帰って、お風呂にそれを持っていった。

大きな葉の真ん中の葉柄とつながっているところは、ちょうどつぎはぎを薄い布で塞いだようになっていて、ここをうまく取り除くと葉柄の穴がつながるのだ。
お湯に入って、蓮の葉柄をくわえてみると、うまい具合に、葉っぱだけがお風呂の上に浮かんだ。
けど、いっこうに空気が送られてこない。たぶんそのつながっているところがうまく取れてなくて、ストローになってなかったのだ。
頭ではそれがなんとなくわかってはいたんだけど、なぜか意地でも私はそれをくわえたまま空気を吸い続けた。

酸素が不足してきた。

だんだん気持ちよくなって、いつか大人になって潜水艦に乗るときはこんな気分なのかなと思った。
あと、いつかセックスすることになったときは、こんな気持ちになるのかなとも思った。

 

覚えてるのはそこまで。
なんでもお風呂に浮かぶ蓮の大きな葉っぱを見つけたお母さんが、慌てて私をお風呂から引っ張りだして、頬を何度も叩いたとあとで何度も聞かされた。

 

私は布団に寝かされ、ひとりで泣いた。
ふわふわのそれを抱きしめて泣いた。

 

 

 

大きな蓮の葉っぱの下でこどもが死んでたらちょっと美しくない?
いまの私ならきっとそう言う。