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- 映画を観終わって館外へ出たとき、すでに外は薄暗くほんのりと冬のにおいがした。 月はまあるいカップケーキのように膨張し、都会のビル間から顔をのぞかせていた。 「 」

CHAPTER3 1

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- 「わたしにはなにもない」 久しぶりに口から出た言葉は、ひどく湿った音だった。 パソコンの灯りだけが煌々と光る暗がりにひとり、膝に顔をうずめてわたしは無意識に呟いていた。 いやぁでも、本当になにもないかと問われるとそうではないのかもしれない。…

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- クリーム色の淡い光が差し込む窓を横目に見つつ、ぬくい塊をひとしきり撫でたあと、もう一度ベッドに身を沈ませた。 少しだけあのことを、あの“嘘”を、 思い出してみる 耳元が覚えてるくぐもったテノール、アルペジオのようになめらかな囁き… ゆるゆると溶…