CHAPTER4 1


夕方の国道沿いを、最近購入した自転車で走っている。
小ぶりな車輪、深緑に白を少し足したような色の、私は速くかわいく走りますって言ってるような自転車。泥除けなんていらない。ずっとこういうのに憧れてた。

 

さっきまで髪を結っていたヘアゴムが、今は右の足首に付いている。デニムの裾がチェーンに引っかかるのを防ぐためだ。おろした髪がなびいて、風の流れを感じることができる。後ろ姿はどんなだろう。

 

車の通りが少ない。目を閉じて走ってみる。風が首を冷やす。目の前の、まぶたの前の道を想像する。ペダルにかける足が震える。こうしてあいつは事故ったと聞いた。

 

今日はとてもいい天気だ。まっすぐと伸びた国道の果てには、沈みかけの太陽がぼんやりと見えている。ひとはいつになったら、太陽の輪郭を知ることができるのだろうか。
いま私は、ひかりに向かって走っている。果てしなく遠くて大きい、あのひかりに向かって、走っている。

 

引っ越して半年も経つのに鍵を閉めるとき逆に回してしまうこととか、カメラ目線のポスターはどこから見ても目が合って怖いとか、そんなことを考えながらペダルを漕いでいるうちに、太陽はすっかり姿を隠してしまった。

 

太陽が沈み、空が朱くにじんでいる時間を"マジックアワー"と呼ぶって教えてくれたのはハルだった。私は1日の中でこの時間が一番好きだ。ハルもきっと、好きなのだろう。

 

ときどきたまに、こういう時間の流れにどうしようもなく感動することがある。
目のふちに涙がたまる。幾多ある信号、それらを目を細めて観ると、光が放射状に滲むのがわかる。
これがみたくて、これがみたくて外に出るんだ。

 

ハルに電話をしよう。
そうしたら、またすこし走って、最初に見つけたお店でごはんを食べよう。

 

今日の私は食べログに頼らない。

 

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「どしたの急に」
「ねえハル、いまどこ」
「家」
「今すぐベランダでて。空がヤバイよ」
「お湯が沸いたらね」
「いいからはやく。ヤバイから」
「ヤバいってなに。君はそうやってすぐ言葉をサボる。ちゃんとわかるように説明して」
「ごめんごめん。ええと、自転車で走っていたら、太陽がどんどんなくなっていって、空が、空の青が、朱くなって、赤くなって、紫になって、ついには雲もどんどん食べられていく。とんでもなく綺麗で、私、嬉しくて、悲しくなってきた。」
「わかった、わかった、いまみるから」
「はやく」


「あぁ、これは、ヤバイね」
「ほら、ハルも一緒だ」

 

______

 


「そういえば食べログ小説どう」
「いい感じになってきたよ」
「いまどういうお話書いてんの」
「説明しにくい」
「えー。じゃあなんかいい感じに例えて」
「んー」
「がんばって」
「あー。君はセーラームーンの決めポーズ知ってる?」
「え?」
「だから、知ってる?」
「なんとなく。でも出来ない」
「そういうことだよ」